鬼畜狼と赤ずきん

美しい少女が森を歩いておりました。

幼少のころから「可愛い」と評判だった少女は、成長するにつれますます美しくなりました。
しかもただ美しいだけではなく、体は程よく肉付き、色気に満ちています。

町を歩けば男達からの誘いが耐えず、同性の女性達からは羨望と嫉妬の眼差しで見られます。
それほどまでに少女は美しく、目立っていたのです。

しかしそれを煩わしく思った少女は、ある日から顔と体を隠すためにいつも赤い頭巾をかぶるようになります。
そして町の人たちはそんな少女を「赤ずきん」と呼ぶようになったのです。

老人介護の仕事をしている赤ずきんは、この日町の外れに暮らす老婆を訪ねるため、食料の入ったバスケットを持って小道を歩いていました。よく晴れていて暖かく気持ちの良い日で、すれ違う人々もなんだか楽しげです。

そんな陽気な雰囲気に当てられたのか、この日、赤ずきんは森へと足を踏み入れてしまいました。
普段なら絶対にそんなことはしないのに、なぜだかこの日は森を通っても大丈夫なような気がしたのです。

「森の中を抜けていけば30分は早く着くわ。今日は早めに仕事を終えて、家でゆっくりできそう」

そんなことを考えながら、普段は見られない森の花々や動物達に心をおどらせます。

『森に入ってはいけない』というのは、町に暮らす人なら誰でも知っていることでした。
なぜかというと、森には恐ろしい狼使いの一族が暮らしているからです。

その一族は決して町の人間達とは群れず、狼を使って狩りをして暮らしています。

赤ずきんもその話を忘れたわけではありません。

赤ずきんが子供のころには、森に迷い込んだ子供が狼に食べられただの、就寝中に若い女性がさらわれただの、物騒な話をよく聞いたものです。

しかし彼らは決して証拠を残さないため、その事件が本当に彼らの仕業なのかは分からないまま。しかもその上、最近彼らはめっきり姿を見せなくなり、町では噂話も聞かないため、赤ずきんの危険意識も薄れてしまっていたのです。

この選択をやがて深く後悔することになるとは知らず……。

「あっ……!」

森の中をしばらく進んだとき。赤ずきんは小石につまずき、足をくじいてしまいました。
靴を脱いでみてみると、足首が赤く腫れていて、歩けそうにありません。

「痛い……どうしよう、町からは随分離れてしまったし、このあたりは誰も通らないし……」

赤ずきんは急に不安になりました。狼と狼使いの一族の話を思い出したのです。
そういえば、一番最後に狼に襲われた人が出たのは、この辺りです。

そしてその時、赤ずきんは森の木々のざわめきに混じって、獣がうめくような低い音を聞きました。
方角から聴こえてくるのかはわかりませんが、1匹ではないようです。しかもそれはどんどん迫ってきています。

「大変……逃げなくちゃ……!」

赤ずきんは立ち上がろうとしますが、足首に激痛が走り、とても歩くことができそうにありません。

それでもここにいては危険だと、無理やりに足を一歩踏み出したとき。
目の前に灰色の狼が現れました。

「いや……!」

狼はみるからに獰猛そうで、低く唸りながら赤ずきんを威嚇して、今にも飛びかかってきそうです。
赤ずきんは少しでも狼の気をそらそうと、手に持っていたバスケットを放り投げます。

「あ……っ!」

しかし狼はそちらには目もくれず、じりじりと赤ずきんに迫ってきます。

「イヤ……来ないで……っ!」

赤ずきんは恐怖のあまりその場に座りこんでしまいます。

しかしその時、どこからか人の声が聞こえました。

「レックス、止めろ」

その声を聞いた瞬間、狼はそれまでとは打って変わって怯えたように縮こまり、おとなしくなりました。
そして先ほどの狼が出てきたのと同じ場所から、今度は白い毛皮のコートを羽織った青年が出てきたのです。

青年の後ろからは他にも数匹の狼が付いてきていて、赤ずきんはこの青年が狼使いの一族なのだと分かりました。

これまで自分が想像していた恐ろしい風貌とは違い、青年は町にもいそうな普通の外見をしていました。

『狼使い』というよりは、むしろ町の酒場のバーテンとでも言われた方が納得できそうな優男風で、しかし町の男たちにはない、どこか野生的な色気を放っています。

「歩けないのか?」

青年は赤ずきんに歩み寄ると、その赤く晴れた足首を眺め、そして頭巾に覆われていた赤ずきんの顔を覗き込みます。

「ふぅん……」

青年は、赤ずきんの顔がとても美しいこと。そしてとても魅力的な体をしていることに気づくと、ニヤリと口の端を歪めて笑いました。

「これ、痛み止めだから。口の中でよく噛んで食え」

そう言って青年が差し出した薬草。
赤ずきんは……

⑴何か怪しいので食べたふりをして捨てる
⑵言われるままに口に含む