鬼畜なカエルの王子様

あるところに美しいお姫様が住んでいました。お姫様は可愛らしい顔つきに似合わず体はとてもセクシーだったので、町中の男達の憧れです。お姫様もそのことを自分で分かっていて、兵士や使用人にわがままな態度をとることもあるのですが、それでもみんなが許してしまうほど、お姫様は魅力的でした。

ある日お姫様はお城の庭で遊んでいたのですが、ふとした拍子に鞠を池に落としてしまいました。その鞠は美しい金の鞠で、お姫様のお気に入りのものです。

「どうしましょう……」

兵士か使用人を呼べばよいのですが、その間に鞠が沈んでしまうかもしれません。

途方に暮れていると、そこに一匹のカエルが現れます。お姫様はカエルが大の苦手だったので、悲鳴をあげて一歩後ずさりましたが、カエルはお構いなしにお姫様に近づくと、こう言いました。

「お姫様、もしも僕の願いを聞いてくれるのなら、あの鞠を取ってきてあげましょう」

お姫様は悩みました。鞠を取ってきてくれるのは嬉しいけれど、カエルは気持ち悪いし、お願いというのもなんだか気味が悪い。でももうじき日も暮れてしまうし、鞠を池に落としたままにするのは嫌だったので、お姫様はカエルに鞠を取って来てもらうことにしました。

「分かったわ、あなたの願いは何?」

カエルの表情は読めませんが、お姫様にはそのときカエルが何やら不気味に微笑んでいるように見えました。

「簡単なことです。僕の恋人になって欲しいのです。毎日僕と一緒に食事をして、お風呂に入って、一緒に眠る。それだけです」

カエルはそういうと、お姫様の答えを聞くこともなく池に飛び込み、あっという間に鞠を持って戻ってきました。

「では、今晩お城に伺います」

引き止める間もなく、カエルはどこかへ消えてしまいました。

お姫様は庭にポツンと残された鞠を見て、途方にくれました。カエルと恋人になるなんて絶対に嫌だけれど、でももう鞠を取ってもらってしまった。でもカエルが本当に今晩部屋にくるのだとしたら……。

「そうだわ、部屋のドアを開けなければいいのよ」

お姫様はそう決めると、鞠を手に持って、そして悲鳴をあげました。鞠はカエルの体液でヌメヌメしていたのです。信じられない思いでその鞠を見つめ、そして悩んだ末に鞠を庭に置いたままにして、お姫様は部屋に戻りました。

洗っても洗っても手がヌメヌメしている気がして何度も石鹸を泡立てました。そのたびに「やっぱり絶対にカエルと結婚なんて無理」と考えるのですが、もしもカエルが本気で部屋にくるのだとしたら恐ろしくてしかたがありません。

しかし、見張りの兵士達に「カエルが来たら追い払って」などと言っても、冗談としか受け取ってもらえないでしょう。お姫様は不安な気持ちのまま、夕食の席に着きました。

するとどこからかピチャピチャと水の音が聞こえてきます。そしてコンコンコン、と戸を叩く音と、続いてあの気持ちの悪いカエルの声が聞こえました。

「お姫様、開けてください」

お姫様は真っ青になりました。その様子を見た王様は、お姫様に「どうしたんだ?」と尋ねます。

お姫様が昼にカエルに鞠を取ってきてもらったことと約束をしてしまったことを話すと、王様は言いました。

「約束はきちんと守るのだ」

年老いた王様は約束にとても厳格な人で、実は王妃と上の2人の兄は約束を破ったために処刑されてしまったのです。王様の前で約束を破るわけにはいきません。

お姫様は仕方なく戸を開け、そしてカエルが望むとおり、一緒のお皿で食事をしました。イボだらけで赤黒い皮膚がとても気持ち悪く、何度も吐き出しそうになりほとんど食べることはできませんでした。

そしてやっと苦痛な食事の時間が終わったかと思うと、カエルは言いました。

「さぁ、次はあなたの部屋のベッドで一緒に眠りましょう。そういう約束です」

お姫様はこんどこそ全力で抵抗して「それは無理だ」と言い張りますが、しかしその様子を見た王様はまたしても言いました。

「約束はきちんと守らなければならない」

王様は見たこともない怖い顔をしていました。お姫様は絶望的な気持ちで、震えながらもカエルと一緒に部屋に向かいます。なんだか体が重く、痺れているように感じられ、すぐにでも横になりたい気分でした。歩いているうちにどんどん意識が朦朧としてきて、そして……

⑴なんとか部屋までたどり着くとベッドに倒れこんだ
⑵フラフラと城の外へと歩いて出てしまった